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20200808.html (11506B)


      1 <h1>冷蔵庫と豊かな生活</h1>
      2 <time>2020-08-04</time>作成<br>
      3 <time>2022-07-20</time>更新
      4 (誤植を修正したが、HTMLのソースの改行に伴う半角スペースはそのままにしておいた。)
      5 
      6 <section>
      7 	<h3>はじめに</h3>
      8 	<p>
      9 	冷蔵庫の必要性に疑問を感じ始めた。
     10 	去年の暮れあたりから発酵食品に凝り始め、
     11 	冷蔵庫の中が少しずつ空いてきた。
     12 	また、同じく去年の暮れ頃、体の冷えがあまりにひどくて
     13 	卒業研究に集中できない状態だった。今年に入り春から夏にかけて
     14 	気温が上がっていく中でも、体が冷えていることに
     15 	変わりはなかった。
     16 	</p>
     17 	<p>
     18 	冷蔵庫の必要性を感じなくなり、冷蔵庫で冷やされたものが
     19 	体に良くないのではないかと考えるにいたり、
     20 	とうとう冷蔵庫の電源を落とした。
     21 	以降何不自由なく暮らせている。
     22 	</p>
     23 	<p>
     24 	一度使わなくなると、そもそもなぜこのようなものが当たり前のように
     25 	普及しているのか疑問に思ったのでいろいろ考えてみた。
     26 	</p>
     27 </section>
     28 <section>
     29 	<h3>発酵食品へ</h3>
     30 	<p>
     31 	去年の秋、引越しに伴い生活費がカツカツになり、それまで特に
     32 	考えずにいた家計について少しばかり見直そうと思い立った。
     33 	そして節約の一環として外食を一切やめ、全ての食事を
     34 	自炊に頼るようにした。
     35 	先に書いたようにまずはお金がなかったので、近くの青果市場で
     36 	見切り品として売られていた30円の野菜ばかり買っていたが、
     37 	一月ほど節約すれば余裕が出てきてすこし贅沢をするようになった。
     38 	と言っても外食ではなくあくまで自炊である。
     39 	出町柳の乾物屋に行って鰹節を求め昆布を買い、味噌汁用の出汁
     40 	をきちんと取るようになった。
     41 	どうでもいいが味噌汁用に鰹節を買いに行くと決まって鯖節を
     42 	勧められるので、求めたのは鰹だが実際に使っていたのは
     43 	ほぼ鯖であった。また、いつも話し方に癖のある主人が
     44 	対応してくれるが、ある時おばあさんが店に出ていた。
     45 	独特の話し方が主人と全く同じだったのには驚いた。
     46 	味噌汁に入れる豆腐を豆腐屋で仕入れるようになったのもこの頃である。
     47 	豆腐屋の人はなぜか皆遠藤征四郎師範のような腕をしている。
     48 	</p>
     49 	<p>
     50 	自分で出汁を引いて作った味噌汁はうまい。そこに浮かんでいるのが
     51 	豆腐屋の豆腐なのでなおさらである。
     52 	自分の舌が肥えていくのがわかった。
     53 	</p>
     54 	<p>
     55 	そんなある日、スーパーで見かけた浅漬を買って食べた。
     56 	漬物は昔から好物だったが、金がないのもあり見ないふりをしていたが、
     57 	なんの気なしに手にとって買い物かごに放り込んでみたのである。
     58 	ところがこれがいまいちだった。一口含んだときはまあそれなりに
     59 	美味しい気はするが、しかしなんというか、奥行きがないという感じ
     60 	なのだ。それ以来スーパーの漬物は買わなくなってしまった。
     61 	</p>
     62 	<p>
     63 	しかし漬物は食べたい。
     64 	結局その頃通っていた近くの米屋で糠をもらってきて
     65 	自分で漬けることにした。
     66 	その際にいろいろ調べたが、どうやらスーパーで売っている漬物
     67 	はどれも発酵していないようなのだ。
     68 	人工的にうま味を添加した液体に野菜を浸しただけのものらしい。
     69 	奥行きがないわけである。
     70 	<p>
     71 	糠漬けに始まり、烏賊の塩辛、キムチ、バター、パンの酵母、
     72 	梅干し、熟れ鮓等発酵食品はいろいろ作った。厳密には塩辛と梅干しは
     73 	発酵していないのだが。
     74 	</p>
     75 	<p>
     76 	そんなある時ザワークラウトを漬けた。
     77 	このときは漬物が食べたいからというより、単にキャベツを保存する
     78 	ためである。
     79 	一人暮らしだと、冷蔵庫があってもキャベツひと玉は傷んでしまうのだ。
     80 	</p>
     81 	<p>
     82 	冷蔵庫でも痛むので塩漬けにする。
     83 	</p>
     84 	<p>
     85 	だったら冷蔵庫要らんのでは?
     86 	</p>
     87 	<p>
     88 	冷蔵庫を手放そうと思い始めたきっかけである。
     89 	</p>
     90 </section>
     91 <section>
     92 	<h3>身体の冷え</h3>
     93 	<p>
     94 	去年の冬、身体があまりにもだるかった。
     95 	何もできない。お腹も痛い。
     96 	地元の漢方薬局を樹脂下が、渡されたのは冷えに効く
     97 	薬ばかりだった。
     98 	中には重度の冷え性の女性が生理中に身体を温めるための
     99 	ものも入っていたw。
    100 	この頃はとにかく身体がだるいだけで、
    101 	自分では冷えているのかどうかよくわかっていなかった。
    102 	ところが漢方薬局の先生に不調を訴えると、
    103 	ことごとく冷えが原因だと言われた。
    104 	頭痛も腹痛も倦怠感も、全て冷えだと。
    105 	そんな状態で真冬を迎えた。確かに寒い。身体がキンキンに
    106 	冷えているのがわかるようになった。
    107 	ふくらはぎはずっとむくんでいるし、
    108 	末端は冷たいし、周りが普通にしている部屋で一人だけ
    109 	凍えていた。
    110 	この頃から身体の言うことをもっと聞いてあげないと
    111 	何もできないことがわかった。
    112 	</p>
    113 	<p>
    114 	以来身体の状態はできるだけ観察するようにしている。
    115 	そして気づいたのだが、自分の身体がずっと冷やされているのだ。
    116 	春が過ぎ暖かくなっても、至るところで冷房画家明かり
    117 	冷たい飲み物を出される。
    118 	まるで汗をかくことが悪であるかのような世界である。
    119 	</p>
    120 	<p>
    121 	この気付きにより、今年の夏は冷たいものは摂取しないようにしている。
    122 	というよりあまり欲しいとも思わないのだ。
    123 	喉が乾いても常温のもので満足なのだ
    124 	(と言っているそばから実家の冷蔵庫にあったハーゲンダッツを
    125 	食べてしまった)。
    126 	</p>
    127 </section>
    128 <section>
    129 	<h3>冷蔵庫の電源を落とす</h3>
    130 	<p>
    131 	身体の冷えに気づき、発酵食品にのめり込み、
    132 	冷蔵庫の必要性に疑問を持ち始めたある時、
    133 	とうとう冷蔵庫の中が空っぽになってしまった。
    134 	ものは試しと早速電源を落としてみた。
    135 	余った食材はぬか床に入れるか、あるいは
    136 	塩漬けにしておけば腐る心配はない。
    137 	</p>
    138 	<p>
    139 	横浜に越してきてからは週末に一週間分の野菜を
    140 	鎌倉の即売所で仕入れ、冷蔵庫に入れていた。
    141 	冷蔵庫の電源を落としてからは余った野菜は
    142 	すべて乳酸菌の力で酸っぱくして保存していた。
    143 	流石に酸味に飽きてきた頃、梅干し用に買ってきたザルが
    144 	梅を干し終えて暇そうにしているのを見つけた。
    145 	干し野菜はうま味が凝縮されて美味しいというので
    146 	試しに余ったものを干してみた。
    147 	きゅうり、大根等水分が多いものは薄く切ってそのまま並べる。
    148 	かぼちゃやじゃがいも等は一度蒸してから干す。
    149 	生のまま干したものは味が濃くなり食感もコリコリと面白くなる。
    150 	一方蒸したものは甘みが強くなり、ねっとりとしてこれもまたうまい。
    151 	一度この味を知ると、どうして今まで冷蔵庫に入れて味が劣化するのを
    152 	気にも止めなかったのかと悔やまれる。
    153 	</p>
    154 	<p>
    155 	魚はその日のうちに使う分以外は塩水につけて干しておくか、
    156 	米と合わせてあせの葉や柿の葉で包んでおけば熟れ鮓になる。
    157 	まだ作ったことはないが、みりん干しなんかもやってみたいものだ。
    158 	</p>
    159 	<p>
    160 	豆腐は水切りをして何かしら塩分の濃いもので包んでおけば
    161 	大丈夫そうだ。
    162 	味噌、糠、塩。どれにつけても美味しい。塩漬けはチーズのような
    163 	芳醇な感じになることを期待していたがそれもない。
    164 	水道水をそのまま使ったのがまずかったか。
    165 	まあ保存はできているのでいいのだけれど。
    166 	</p>
    167 	<p>
    168 	肉は最近食べていないのでわからないが、魚と同じだろう。
    169 	中国には確か肉の熟れ鮓もあったような。
    170 	燻製なんかも興味がある。
    171 	</p>
    172 	<p>
    173 	冷蔵庫を使わなくなり一週間経つが、何一つ不便なことはない。
    174 	冷蔵庫の下が掃除できないので早くいなくなってほしいくらいだ。
    175 	</p>
    176 </section>
    177 <section>
    178 	<h3>なぜ冷蔵庫がうちにあるのか。</h3>
    179 	<p>
    180 	改めて冷蔵庫というものを見直してみると、どうしてこんなものが
    181 	台所の一角に鎮座しているのかわからなくなってきた。
    182 	大学に進学し一人暮らしを始めるに当たり、
    183 	なんの疑問もなく買ったのだ。
    184 	電子レンジや洗濯機も同じである。
    185 	テレビはNHKが鬱陶しいので買わなかったが。
    186 	冷蔵庫は家に必要なものであるという常識のもとに生まれ、
    187 	冷蔵庫を当たり前のように使いながら育った。
    188 	一人暮らしをするというと、どこに行っても冷蔵庫を買うのが
    189 	当たり前かのように話が進み、とうとう自分でも買うに至ったと
    190 	言うわけである。まあ冷蔵庫を買うのは当たり前なのだろうが。
    191 	</p>
    192 	<p>
    193 	つまり冷蔵庫がうちにあるのは世の中の常識を
    194 	そのまま自分の家に取り込んだ結果なのだ。
    195 	</p>
    196 </section>
    197 <section>
    198 	<h3>冷蔵庫という常識</h3>
    199 	<p>
    200 	ではなぜ冷蔵庫を持つのが常識なのか。
    201 	簡単である。
    202 	マーケティングの結果だろう。
    203 	</p>
    204 	<p>
    205 	今までの生活が不便だという認識を植え付け、
    206 	その不便を解消するという謳い文句で新しい常識を売る。
    207 	世の中に出回っている便利な道具は大方同じであろう。
    208 	</p>
    209 </section>
    210 <section>
    211 	<h3>豊かさとは</h3>
    212 	<p>
    213 	豊かな食生活のためといって舶来の料理をはやらせ
    214 	食物油を売り、頑固な油汚れが落ちるからと言って
    215 	強力な洗剤を売り、荒れた手が潤うからと言って
    216 	ハンドクリームを売る。
    217 	</p>
    218 	<p>
    219 	忙しいからと便利な家電を売り、
    220 	その一方で暇を潰すためのエンターテインメントに
    221 	金を払わせる。
    222 	</p>
    223 	<p>
    224 	暑いからといいエアコンを売って快適な環境を整え、
    225 	汗をかくためにサウナに金を使わせる。
    226 	</p>
    227 	<p>
    228 	きついからと言い肉体労働を敬遠し、
    229 	楽をするために自動車を買い、
    230 	その一方で運動不足になりジムに通う。
    231 	</p>
    232 	<p>
    233 	どれもこれもテレビや新聞等のメディアに作られた豊かさ
    234 	ではないだろうか。
    235 	</p>
    236 	<p>
    237 	常識や流行にとらわれず、豊かな生き方とはなんなのか、
    238 	本当に必要なものはなにか、自分自身に問いただす。
    239 	一度すべての常識を捨て、自分にとって本質的なものを
    240 	ゼロから構築する。
    241 	人生を本当の意味で豊かにしてくれる物だけがすべて揃った
    242 	そんな家に僕は住みたい。
    243 	</p>
    244 </section>